蜜柑
(発売元:シーズウェア)
序論
ちりばめられた断片。突然出現する謎の少女。高度な言葉のレトリックの数々にユーザーは置いてきぼりを食ってしまうに違いない。しかしながら、何故か引きつけられてしまう・・・・。そんな不思議な魅力を本作は持っている。目に沁みる汁にも負けずに皮を取り去る事が出来れば、そこには甘美な世界が待っている。その作業は決して簡単ではなく、ユーザーに対応が丸投げされているゲームは数多いが、本作は美麗なCG、決して雰囲気を壊さない声優陣の演技、そして何より快適なシステム周りがユーザー側の負荷を減らそうと務めているから、難解なストーリーを追う際のストレスも軽減される事だろう。本作は決して華々しい存在ではないけれども老舗の実力を充分に見せつけている名作である。
1.シナリオ・人物設定・・・・・・14点/15点
このゲームは大きく分けて、現実世界と『虚ろなる器』と名付けられた主人公の著作の中で繰り広げられる心象世界の二つに、そしてその心象世界の中も3つのパートに分かれており、そしてそれらが断片的に語られるという形を取っている。それは主人公の職業が作家という設定からくる高度な言葉のレトリックの数々と相俟って、よりストーリーの全容を理解する事を困難にしている。断片的な情報のみを受け手側に流し、後はユーザーの自主的な補完に任せる、といある意味で作り手の責任放棄とも思えるこの手法であるが、本作に限って言えばこれだけで話を理解する事は充分可能である。登場人物が主人公以外には4人しかいないのであるが、それぞれが話ごとに全く違った顔を見せるのでまるで飽きが来ない。最近、声優をセレクトできる機能を搭載したゲームが出ているが、それと同じ効果が出ていると思われる。しかしながら、4つの話を断片的に流すと言う事で、元々分かり難い話がより一層難解なものとなっていると言う事は否定できない。私は3つの話を選択して、その話の合間、合間に現実世界の出来事が挿入されているという感じの方が分かりやすいと思ったのだがどうであろうか?
2、CG・・・・・・・14点/15点
ストーリーが内包している謎の雰囲気をぶち壊さない、いやより一層際立たせている。話によってキャラの雰囲気がガラリと変わるのだが、絵の持つ空気も変わっているので違和感が全く無い。CG数が少ないと言えば少ないのだが、ゲームの先が知りたい中での一枚絵を抑えたスムーズな展開はむしろ望む所であろう。キャラ絵はもちろんの事であるが、注目して頂きたいのは背景CGである。幽玄な雰囲気はもちろんの事、背景CGの数は決して多くないのであるが、上手く使いまわしているので全く気付かない。これは“ツクール”系のゲームを作っている人には参考になると思われる。敢えて難点を挙げるのならば、HCGの数の少なさであろうか?しかしながら、私は話の先が気になったのでHシーンもスキップしてしまったが。合間に入るアイキャッチもユーザーをやきもきさせるであろうが、なかなかよい。
3、音楽・・・・・・9点/10点
決して派出では無い。主題歌に人気ユニットを使ってるわけでも無いし、BGMには余り目が行くことも無いはずだ。しかしながら目が行かない、と言う事は与えられた役割を忠実に果たしていると言う事である。『ゲームを進める上での潤滑油』としての働きを。目立たないとは言うものの、そのサウンドはサントラが欲しくなってしまう程のものであると言う事を付記しておく。
4、システム・・・・10点/10点
老舗シーズウェアが存分に本領を発揮している。バグの少なさ、セーブ・ロードの簡易さ。アイコンの簡素さ、そして『ひとつ前の選択肢に戻る』というコマンドの存在のおかげでユーザーの作業のかなりの部分が軽減されている。もしも、このシステム周りの軽快さが無かったならば、多分蜜柑は名作では無くなってしまうであろう。縁の下の力持ちとは良く言うが、ゲームをやっていて一番目に付くのはこのシステムなのかもしれない。
総評・・・・・・・47点/50点
終わって見たら現時点での最高得点であったわけだが、何らその得点に恥じない作品である。引きこまれるストーリー、幻想的なCG(背景も含む)、控えめではあるが秀逸な音楽、そして何よりもそれらを引き立たせているシステム。驚嘆に値する完成度である。本作は余り話題にならなかったわけだが、本作の面白さを考えるとこれは不当な評価と言わざるを得ない。ボリュームの少なさから小物に考えられがちであるけれども、そこらの“大作”と呼ばれている作品よりも余程素晴らしい事は保証する。今からでも遅くない、是非とも蜜柑の味をあなたにも味わっていただきたいと強く思う。